高官は王の元で政治に関わり、その他の官庁職員たちに命令を与えていたのです。
幾つかのポジションは財務省などの市民政府で、軍事を中心に働く者、集中的に神殿に遣える者もいました。
ファラオは彼に付き添う個人的な職員を抱えていて、彼らの王族への実質的な親密感が地位を高くしていたのです。
例えば、王権を表す扇を持つ人、サンダルを運ぶ人は高位のランクだとされています。
書記官も行政の中で重要な職種で、読み書き出来る職員の数がとても少なかった時期は特にそうでした。
もっとも高位の宮員は王から時折り報酬を授かり、新王国時代の芸術では頻繁に〝金の栄誉〟を授かる場面が描かれています。
ファラオが宮殿の謁見の窓に立って、それらの贈り物を授け、高官の像はそれを身につけた姿で頻繁に描かれています。
テルエルアマルナ アイの墓
アイは前代の2~3世代のファラオ達と近しかったアドヴァイザーで、若くして王位に就いたツタンカーメン王の統治時代には青年王の後ろ盾の力だっと言われています。
ツタンカーメン王の後を継いで18王朝で最後から二番目のファラオとなったのです。
四年間という短い期間を統治し、自分の墓を王家の谷の中に建設しています。(1323から1319BC または1327から1323BC)
アマルナのアイの墓から発見された石盤の一部は、彼が金の名誉の数々を首にかけ、王族のカップルから両手をあげて新たな襟飾りを受け取っている場面が描かれています。
書記官と高官の到着をあらわすレリーフ
テーベ アッサシフ
テーベの墓から引き出された石碑には、コミュニティー内で重要な位置にあり、特有の適切な服装を着て、それぞれの地位や宮を現すしるしを持ったメンバーの行列が描かれています。
石碑の下部には〝行政長官たちの中で偉大な位置にあった〟と刻まれていることから、墓の主の葬儀に参列しに来た高官たちの姿だろうと解説されています。
行列の先頭を歩くのが高官で、その前に腰帯だけが現れている人物が、このイベントの焦点として描かれていたと思われていますが、それ以上のことは解っていません。
18王朝最後の王、ホルエムヘブのレリーフ
新王国時代・第18王朝
カイロ
アメンホテプ三世の時代から王家に仕えた軍人で、ツタンカーメンの時代には将軍の地位にありました。
古代エジプト第18王朝で最後の第9代ファラオの位置に就くと、アマルナ時代以前の旧制への復帰を図り、受け腐敗しきっていた政界、官界及び軍隊を改革して大きな成果を挙げています。
統治は悪徳に対して厳罰を与えるなどと厳格なものでしが、民衆からは支持されたていたそうです。
このレリーフの断片は、彼の戴冠式に関係する場面であろうと推測され、太陽神ケプリにお香と水を挙げている姿だと解説されています。
戴冠式に関係するブルークラウンを冠り、頭の上には隼の姿をしてシェンの輪を掴んで飛翔するホルス神の姿が浮き彫りにされています。
この献上によって新しい王はケプリ神から〝人生の最後までラー神、喜びの中のホルス神の王権〟という神権を授かっています。
古王国時代・第四王朝
ギザ西部の埋葬場、カイの墓
サッカラ テティのピラミッド墓地 ヘテプの墓
ホテプとは「満足した、平和に」という意味。
人物を人間の姿ではなく、ブロックの形で表現するという発想はとても奇抜で、それと同時に異様な魅力を感じさせます。
サッカラのピラミッド墓地で発見された四角いブロックの形をした石像は、王族と並んで重要な存在であった個人の追悼の像とされ、寺院の参道に守護者として置かれていました。
四角く不思議な形の像は魔法的な目的を持ち、亡くなった人の魂が石像から日々立ち上がって役目を果たして戻ってくるというアイデアも込めれています。
とても特徴的な趣きで観る人の心をひきとめるブロック像のアイデアは、頭の後ろの丸みからオシリス神が生まれた聖なる塚の形に関連づけられているという見解から、椅子輿に座っている人物の姿を表している。
古王国時代の墓々にみられ、平面で表されている墓の主が椅子輿に座って運ばれている場面を立体的に翻訳したものだという説などがあります。
合理的な理解としての視点では、四角い箱の中に人間が身体を小さくして収まっているというアイデアで、死んで魂になり、呼ばれれば箱の中から出て来るという、魔法瓶の中に棲んでいる魔法使いジニー的な発想です。
この表現のされ方が連想させるのは、死者の書の中で描かれている〝箱の中から顔を出すラー神〟を描いた場面です。
そして像を横から見ると三つの段差の違う階段形式になっているのですが、これは女神イシスの頭に乗っている三段の階段を表した冠を思い起こさせます。
ブロック像の独特の様式は長く使用されることはありませんでしたが、中間王国から後に現れるブロックの形態をした石像のインスピレーションになっています。
イムホテプは第三王朝のジェセル王の司法官で、ヘリオポリスのラー神殿の大神官でもあり、エジプト史の中で最初の建築家、エンジニアとして階段ピラミッドを設計しました。
外観から内部の石壁、石のフロアなど、総てが石で建設されたサッカラのピラミッドは、この時代のエジプト史上で初めてのものだとされています。
それと同時に医者でもあり、医療に関する論文に当たる人体の解剖学的な観察、病気と治療に関する記述も残しています。
その他にも大宮殿の長官、大工の長、彫刻家の長、壺制作家の長、代々の貴族という肩書きで解説されています。
イムホテプは庶民として神格化された数少ない稀な人物で、第一中間期から後では詩人、哲学家としても崇められるようになっています。
後に一人の賢者、司書官の後援者として崇拝されました。
後期時代では薬と医学に関係づけられ、信心深い人々によって彼の像がイムホテプ大神官へと奉献されてたほどの人物です。
知恵の神、書記の守護者、時の管理人、楽器の開発者、創造神と言われるトキの頭のトート神と関連づけられ、後の第18王朝・アメンホテプ三世の時代に生まれた別の建築家、ハプの息子アメンホテプと一緒に、兄弟としてトート神に捧げられた神殿で崇められます。
古都ヘルメポリスではトート神が原型と考えられるヘルメス神と関連づけられ、ヘルメス主義と錬金術師ヘルメス・トリスメギストスと結びつけられるようになります。
医学と薬学の側面では、蛇杖を持つギリシャのヒーリングの神アスクレピオスと関連づけられています。
神話で語られているイムホテプの母親は、太陽神の四つのバー(魂)を現すバネブドジェデト神の娘クエルエドゥ・アンクで、後に半神の位置に置かれた存在です。
その他にもイムホテプは創造神プタァの息子だとされる神話もあり、この場合での母親はプタァ神の妻である女神セクメトだとされます。
また別の神話での彼の父親はカノフェルという名前の建築家だとされています。
この石像はラメスサイドの芸術の中でもベストな作品だと解説されています。
ラメスサイドというのは新王国時代の第19王朝から20王朝(1292年~1069年BC)でラメセス名のファラオが統治した期間のことを指します。
ハピィはラメセス二世の時代にアムン神の執事だった人物で、石像では書記官としてペンを持っている姿で描かれ、かなりの影響力を持っていたと考えられています。
古代エジプトでの執事という地位を持った人たちは、単なる秘書的な働きをしていたのではなく、かなりの権限と責任を持ってた管理官に近い職種でした。
石像の刻印ではアムン・ラー神と彼の妻、〝ラー神の眼〟女神ムトに関係していました。
また神々の妻の位置にあったアムン・アモスネフェルタリ女王は女神として扱われていたことも示唆しています。
第三中間期に改彫
一般的に儀式の中では、女神ムトの頭のついた棒を持っていたと考えられていますが、この像の棒には女神ハトホル/女神イシスの頭が乗っています。
第18王朝の時代から数世紀の後、第22王朝の第二ファラオ、オソルコン一世の息子シェションク二世が彫り直して新しいディテイルを付け加えたのではないかと解説されています。
頭は明らかに鬘を被ったようにで、鬘の髪の毛の表され方は、縦に流れ落ちる束のように見えます。
奥から現れて肩を覆って一部が胸の上部まで降りている髪の毛のようなデザインは、ネメスのデザインの発展系で、髪の毛の表現は連なって下がるビーズのようにも見えます。
〝鬘〟という姿の中には、少なくとも四つのデザイン要素が組み込まれているのです。
この像で興味を引いた部分は、人物の顔と左手に持っているワンドの頭部、スカートのような腰巻きのデザインと膨らみ、刻まれている模様です。
像を横から見ると腰巻きスカートは縦に皺の入った柔らかめの布的に見えますが、前部分は縦長の四角錐が腰巻きスカートの中に入っているように見えます。
写実性から考えると、単にスカートを現しているのではなく別の意味が含まれているのです。
この構図はその他のファラオや神々の像にも見られるもので、縦長のピラミッドの一面、またはオベリスクの頭のようにも見えます。
胴体にはアメン神が描かれ、そしてスカートの前面では冥界の神オシリスの姿が彫り込まれています。
上半身は太陽に関係する神様で、下半身は地下世界に関係する神様ということになります。
この図式は鋭い三角形という形を通じて神々の表す力の移動、オシリス神がアメン神へと変容することを示唆したものです。
第18王朝の第5ファラオだったハトシェプストの宮中で、女王のお気に入りだった高官セネンヌトは、王女ネフェルレの家庭教師で保護者でもありました。
この石像の革新的な部分は伝統的な性別による役割を翻し、彼の役割から男性ですが女性的な姿で王女を抱えている姿で現されています。
王女ネフェルレは二人のファラオ、トトメス二世とハトシェプスト女王の間に生まれた娘で、トトメス一世の孫に当たります。
彼女は宮中で高位の席につき、政治と宗教的な運営に関わっていました。
母親のハトシェプストがファラオの位置に昇ると、ネフェルネはファラオの妻・女王としての役割を演じるようになります。
カルナック神殿で見つかったこのブロック像は、王様の高官で保護者だったベネルメルトが第18王朝のファラオ、トトメス二世の娘であるメリタムンを外套の中に包み込んでいます。
この石像の入念に手の込んだ精巧な様式はハトシェプスト女王の時代に生まれたとされています。
メリタムンは、第18王朝の第6ファラオ・トトメス三世とメリトレ・ハトシェプストの間に生まれたとして知られる6人の子供たちのうちの1人です。
メリトレ・ハトシェプストと女性のファラオであるハトシェプスト女王は別人で、メリトレ・ハトシェプストは女性神官フイの娘で、ハトシェプスト女王はトトメス一世の妻アーメスの娘です。
メリトレ・ハトシェプストの子供は、父トトメス三世の後を継いでファラオとなったアメンホテプ二世世、メンクエペルレ皇太子、そして、ネベティウネト王女、メリタムンCとメリタムンD、そしてイセトで、両親は二人の娘を同じようにメリタムンと名付けています。
メリタムンの姿は大英博物館に収蔵されている母方の祖母フイの像と一緒に、姉妹達とメンクエペルレと共に描かれていますが、どちらの娘なのかは解っていません。
また父によって建設された複合葬祭神殿群であるデル・エル・バーンでも描かれています。
メリタムンは母親から〝アムン神の妻〟というタイトルを受け継ぎ、さらに〝王の娘と王の姉妹〟というタイトルも授けられています。
〝アムン神の妻〟という称号は、ファラオの母親がアムン神によって受精して生まれたとする神話に関係するものです。
古代都市テーベで25王朝から26王朝の宗教機関、アムン神のカルトで最も高位な女性神官だったことを指し示しています。
新王国時代 第18王朝 アメンホテプ三世 テーベ 王家の谷 ユヤとツヤの墓
1907年に王家の谷で発見されたユヤとテヤの墓は、発見当時では、王家の谷で最も偉大な発見とされてました。
しかし、後のツタンカーメン王の墓の発見によって知名度を失ってしまいました。
宝石箱のカルトューシュには第18王朝の第9ファラオ、アメンヘテプ三世の名前が刻まれ、王族からの贈り物だったのではないかと解説されています。
箱の中から宝石や宝飾品などは発見されていません。
箱のデザインのモチーフの中で最も眼を引くのが、全体に繰り返される三つのシンボルのパターンです。
一つは〝アンク〟と呼ばれる命のシンボル、柱のようなのがオシリスの背骨とも呼ばれる〝安定性〟を意味する「ジェド柱」、そしてもう一つのシンボルは〝ワズ杖〟と呼ばれるパワーと支配権を意味しています。
解説では〝命〟〝エンドュランス 耐久〟〝繁栄〟となっていました。
アンク
古代の神々の多くは手にアンクをの上部を持った姿で表されることが多く、場合によっては胸の上で交差された上腕の手に握られている場合もあります。
〝アンク〟の力を信じる者は一度だけ生き返ることが出来ると信じられていたそうです。
古代エジプトで永遠の命の象徴とされるアンクの由来は現在でも謎のままで、幾つかの憶測が囁かれていますが明確にはされていません。
エジプト神話の中で頻繁に描かれるシンボルの一つで、この形のヒエログリフは「安定性」と「持久力」を意味しています。
死後と地底世界、そして死者を司るオシリス神に関係し、一般的な解釈では、聖なる樹、オシリス神の背骨を象徴してると解説され、頻繁に葬祭用具に描かれています。
棺の下部は頻繁に大きなジェド柱で装飾され、棺の中に収まる故人のミイラの背骨は描かれた柱の位置に沿っています。
数えきれない程の表現で代々の王に伝え継がれて来たもので、神々の多くも力の象徴として携えた姿で描かれ、大抵の場合はアンクの印やジェド柱などの紋章と一緒に表されています。
葬祭の文脈の中でワス杖は故人の死後の健康と幸福を叶えるもので、アミュレット(お守り)としても知られ、墓に納められる備品の中に含まれたり、墓や棺の装飾として描かれています。
空は四つの柱によって支えられていると古代エジプト人は考えていたので、ワス柱はその形を現しているとも推測されています。
ワス柱は上部で四番目のノモス(小国家)、テーベのノモスのシンボルでもあり、その場所は「ワスセト Waset」と呼ばれます。
続く
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